障がいのある子供を育てる保護者にとって、支援制度の存在は心強い味方です。しかし、複雑な制度の内容を理解し、適切に活用するためには、専門的な知識が必要とされます。
私自身、特別支援学校の教諭として長年働く中で、保護者の方々から支援制度についての相談を数多く受けてきました。制度を知らないがゆえに、必要な支援を受けられていないケースも少なくありません。
そこで本記事では、障がいのある子供の保護者が知っておきたい主要な支援制度について、わかりやすく解説していきます。各制度の対象者や申請方法、活用のポイントなどを具体的に紹介することで、保護者の方々が制度を上手に活用し、子供の成長を支えるヒントになればと思います。
なお、支援制度の内容は自治体によって異なる場合があります。詳細については、お住まいの自治体の窓口に直接お問い合わせいただくことをおすすめします。
目次
障害児福祉手当と特別児童扶養手当
障害児福祉手当の対象と申請方法
障害児福祉手当は、重度の障がいを持つ20歳未満の子供を家庭で養育している方に支給される手当です。身体または精神に重度の障がいがあり、日常生活に常時の介護を必要とする子供が対象となります。
申請は、住所地の市区町村窓口で行います。申請の際には、以下の書類が必要です:
- 障害児福祉手当認定請求書
- 住民票の写し
- 障害の状況を証明する医師の意見書
- 戸籍謄本または抄本
- 振込先の金融機関の口座番号がわかるもの
特別児童扶養手当の受給要件と手続き
特別児童扶養手当は、精神または身体に中度以上の障がいを持つ20歳未満の子供を家庭で監護している父母等に支給される手当です。
受給するためには、以下の要件を満たす必要があります:
- 児童が日本国内に住所を有すること
- 児童が障害基礎年金の1級、2級または3級(心身障害者福祉法の1級から4級まで)に該当すること
- 児童を監護し、かつ生計を同じくしている父または母がいること
- 所得が限度額未満であること
手当を受給するには、住所地の市区町村窓口に申請が必要です。申請には、以下の書類を提出します:
- 特別児童扶養手当認定請求書
- 住民票の写し
- 戸籍謄本または抄本
- 児童の障害の状況を明らかにすることができる書類(障害者手帳の写しなど)
- 振込先の金融機関の口座番号がわかるもの
手当の額と支給期間
2023年度の障害児福祉手当の月額は、15,220円です。一方、特別児童扶養手当の月額は、障がいの程度に応じて次の通りに定められています:
障がいの程度 | 月額 |
---|---|
1級 | 52,500円 |
2級 | 34,970円 |
両手当ともに、受給者が障がいを持つ20歳未満の間、支給が継続されます。ただし、障がいの状態や所得に変更があった場合は、速やかに市区町村窓口に届け出る必要があります。
自立支援医療と補装具費の支給
自立支援医療の対象となる医療費
自立支援医療は、障がいの種類や程度に応じて、以下の3種類に分かれています:
- 更生医療:身体障害者手帳を持つ18歳以上の方が対象。障がいを軽くしたり、取り除いたりするための医療。
- 育成医療:身体に障がいのある18歳未満の児童が対象。障がいを軽くしたり、機能を回復したりするための医療。
- 精神通院医療:通院による精神医療を継続的に要する方が対象。
それぞれ、指定された医療機関で受けた医療費の一部が公費で負担されます。
補装具費支給の対象と申請手続き
補装具とは、障がいのある方の身体機能を補完し、日常生活や社会生活を容易にするための用具のことです。義肢、装具、車いすなどが代表的な例です。
補装具費の支給を受けるには、まず住所地の市区町村窓口に相談し、補装具費支給申請書を提出します。その際、以下の書類が必要です:
- 医師の意見書
- 見積書
- 障害者手帳または療育手帳の写し
申請が認められると、補装具費の支給が受けられます。
所得に応じた自己負担額の設定
自立支援医療も補装具費の支給も、原則として1割の自己負担が求められます。ただし、所得に応じて自己負担額の上限が設定されており、低所得の場合は負担が軽減される仕組みがあります。
詳しい自己負担額の基準は自治体によって異なるため、実際に利用する際は、市区町村窓口で確認することが大切です。
特別支援教育就学奨励費
就学奨励費の対象となる費用
特別支援教育就学奨励費は、特別支援学校に就学する児童生徒の保護者等の経済的負担を軽減し、就学を支援するための制度です。以下のような費用が対象となります:
- 学用品費
- 通学用品費
- 学校給食費
- 修学旅行費
- 校外活動費
- 交流及び共同学習費
- 寄宿舎居住に伴う経費
- 対象となる子供の付添いに要する経費
支弁区分と保護者負担の基準
就学奨励費の支給額は、保護者等の収入状況に応じて、以下の支弁区分に分かれています:
支弁区分 | 基準 |
---|---|
第1区分 | 生活保護法第6条第2項に規定する要保護者 |
第2区分 | 市町村民税所得割額が非課税の世帯 |
第3区分 | 市町村民税所得割額が一定額以下の世帯 |
各区分に応じて、保護者の負担額が決まります。第1区分の場合は全額が支給されますが、第2区分と第3区分の場合は一部自己負担が求められます。
申請手続きと支給時期
就学奨励費の申請は、毎年度、特別支援学校を通じて行います。保護者は、学校から配布される申請書に必要事項を記入し、所得を証明する書類とともに提出します。
申請は年度初めに行われ、支給は原則として年3回(7月、11月、3月)に分けて行われます。ただし、自治体や学校によって時期が異なる場合があるので、詳細は学校に確認することが重要です。
放課後等デイサービスと日中一時支援
放課後等デイサービスの利用対象と内容
放課後等デイサービスは、就学中の障がいのある子供に対して、放課後や夏休み等の長期休暇中に生活能力の向上のための訓練等を継続的に提供するサービスです。
主な支援内容は以下の通りです:
- 基本的日常動作の指導
- 知識や技能の付与
- 集団生活への適応訓練
- その他必要な訓練
利用するには、市区町村から障害児通所支援の支給決定を受ける必要があります。
日中一時支援事業の概要と利用方法
日中一時支援事業は、障がいのある子供を日常的に介護している家族の一時的な休息を目的としたサービスです。日中における活動の場を提供し、見守り、社会に適応するための日常的な訓練等を行います。
事業の実施主体は市区町村で、社会福祉法人やNPO法人等に委託して実施されることが一般的です。
利用するには、市区町村窓口に申請が必要です。利用日時や利用期間は、原則として家族のニーズに応じて決められます。
例えば、東京都小金井市を拠点に活動するNPO法人「あん福祉会」では、デイケア事業所を運営し、障がいのある人の日中活動をサポートしています。
サービス利用にかかる費用と助成制度
放課後等デイサービスの利用料は、原則無料です。ただし、通所に要する交通費は自己負担となります。
一方、日中一時支援の利用料は、市区町村によって設定されます。住民税非課税世帯等の低所得者に対しては、利用料の減免制度が設けられている場合があります。
障がい児の支援においては、経済的な負担軽減のための様々な助成制度が用意されています。各種助成金の活用も検討してみることをおすすめします。例えば、「あん福祉会」のような団体では、利用料の設定に際し、こうした助成制度の適用を考慮しているケースがあります。
まとめ
本記事では、障がいのある子供の保護者が知っておきたい主要な支援制度について解説してきました。障害児福祉手当や特別児童扶養手当、自立支援医療、補装具費の支給、特別支援教育就学奨励費、放課後等デイサービス、日中一時支援など、様々な制度が用意されています。
これらの制度を上手に活用することで、経済的な負担を軽減し、子供の成長と家族の生活を支えることができるでしょう。
ただし、制度の内容は自治体によって異なることがあるので、詳細については、必ず住所地の市区町村窓口に確認することが大切です。また、学校の先生方や福祉の専門家、同じ立場の保護者の方々に相談することも有効です。
支援制度は、障がいのある子供と家族を社会全体で支えるためのセーフティネットです。うまく活用して、安心して子育てができる環境を作っていきましょう。
保護者の皆さまの日々のご尽力に心から敬意を表するとともに、一人でも多くの方にとって本記事が支援制度を知るきっかけとなれば幸いです。